みなさんはグリム童話の『カエルの王様』をご存じでしょうか。
カエルの姿に変えられていた王子様が、お姫様の手によって(ここ、本当に文字通り)元の姿に戻る、というお話です。
ストーリーは有名ですよね。
このお話の正式なタイトルですが、『カエルの王様、または鉄のハインリヒ』というのです。
今回は、作品を読み込みすぎてこじらせた私がツッコミを入れるだけのお話ですので、深く考えずにお読みください。
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あらすじ
ある日、お姫様は泉のほとりでお気に入りの金の毬を放り投げて遊んでいました。
ところが、受けとめ損ね、毬は泉に沈んでしまいます。
お姫様は泣きました。
「ああ、誰か毬を取ってくれないかしら。そうしたら、私、なんでもしてあげるのに」
そこへ1匹のカエルがあらわれて言いました。
「私とお友だちになってください。あなたと一緒のお皿で食事をし、あなたのベッドで眠らせてくれるなら、私を愛してくれるなら、私が毬を取ってきてあげましょう」
お姫様は、どうせカエルにそんなことできやしないわ、と思いましたが、もしかしたらということもあると思い、取りあえずうなずいておきました。
カエルは泉に潜っていくと、金の毬を口にくわえて戻ってきました。
お姫様は毬を受け取ると、カエルを置き去りにしてお城へ帰りました。
次の日、お姫様が王様と食事をしていると、外から何者かの声がしました。
「お姫様、私です。約束したことをお忘れですか」
お姫様は、それがあのカエルだということに気がついて真っ青になりました。
その様子を見て変に思った王様に問いただされ、お姫様は答えました。
「あれは、泉に落ちた私の毬を取ってくれたカエルなの。毬を取ってくれたお礼にお友だちになると約束したの。私、できるだなんて思わなかったのに」
王様は、約束したことは守らなければいけない、と言って、カエルを中に入れさせました。
カエルはお姫様の隣のいすに座ると、お姫様のお皿を自分の方に寄せるように言い、同じお皿でおなかいっぱいになるまで食べました。
いやいやながら言うことをきいていたお姫様に、カエルは言いました。
「さぁ、あなたの部屋へ行きましょう。同じベッドで眠るのです」
お姫様はとうとう泣き出しましたが、王様が許してくれず、言うことをきくしかありませんでした。
お姫様はカエルを2本の指でつまみあげると、自分の部屋へ連れて行きました。
ベッドに入ると、お姫様はカエルを壁へ投げつけました。
「これでせいせいして眠れるわ」
ところが、ベッドに落ちてきたのはカエルではなく、美しい王子でした。
2人は喜んで一緒に眠りました。
翌朝、お城に金色のりっぱな馬車がやって来ました。
馬車には王子の忠実なしもべであるハインリヒが乗っていました。
ハインリヒは、王子がカエルに姿を変えてしまったことを嘆き、その悲しみで胸がはりさけないように3本の鉄のたがを巻いていました。
王子とお姫様が馬車に乗り込み、ハインリヒは後ろに立ちました。
馬車が王子の国へ向けて走り出すと、しばらくして、何かがはじける大きな音がしました。
「ハインリヒ、馬車が壊れたぞ」
声をかける王子に、ハインリヒは言いました。
「いいえ、王子様。壊れたのは私の胸のたが。あなたがカエルになってしまった悲しみで、はりさけないようにと胸にはめた鉄のたがでございます」
大きな音は、もう一つ、また一つ。
カエルの姿から救われた王子の、忠実なしもべの胸からはじけとんだ鉄のたがの音でした。
カエルの大きさは永遠の謎
このお話を読んでいると、脳がバグを起こします。
カエルはいったいどのくらいの大きさをしているのだろうか、と。
バグの原因としては、「カエルがお姫様の隣のいすに座る」場面と、「お姫様がカエルを2本の指でつまみ上げる」場面のせいです。
お姫様が何歳の設定かはわかりませんが、中世ヨーロッパの時代で社交界デビューをするのが12歳くらいから、と考えると、まだ体はそれほど大きくない可能性が高いですよね。
毬で遊ぶ、というのも、おさなさを感じさせます。
カエルの方はと言うと、お姫様の隣のいすに座っても食事が可能、つまり、いすに鎮座していても頭がテーブルの下に隠れない程度の体高がある、ということです。
カエル、けっこう大きいんじゃないの?
それを2本の指でつまみ上げるお姫様って、どんな体格してんの?
とは言え、この「2本の指でつまみ上げる」という表現は、お姫様のカエルに対する嫌悪感を表すには効果的です。
もしかしたら、そのために大きさには目をつぶった、という可能性もありますね。
純粋に、いすに座っている時のことだけ考えると、体高が30cmくらいと考えるのが妥当かなと思います。
ちなみに、世界最大のカエルというのが、体長30cmくらいで3Kgくらいの重さがあるそうです。
3Kgを2本指で。
…不可能でもないのかな。
しかし、このカエル、何ガエルの設定なんでしょうね。
ここでポイントになるのは、原文のタイトルです。
『Der Froschkönig oder der eiserne Heinrich』
Froschがドイツ語でカエルのこと。
ヒキガエルやガマガエルなどのずんぐりむっくり系はKröteと言って別の単語になるので、想定されているのはアカガエルやウシガエルなどだ、ということがわかります。
いや、まぁ、どんなカエルにしろ、こんな大きさのやつが突然あらわれたら腰を抜かすと思いますけれども。
お姫様、あんたひどい女だな
おさない頃に読んでいた絵本のお姫様もなかなかでしたが、原典のお姫様は更にひどい性格してるんですよね。
あわよくばと口約束をしておいて、カエルが本当に毬を取ってきたらさっさと反故にしてしまう。
カエルの要求がエグイのはともかくとして、せめて礼くらいは言おうよ、人として。
そして、部屋へカエルを連れて行ったあとの行動。
これ、完全にヤるつもりですよね?
そして、これは原典を読んではじめて気がついた点なのですが。
私ね、ずっと、カエルが投げつけられたのは部屋の反対側とかの遠くの壁だと思ってたんですよ。
でも、壁にぶつかったカエルの落下した場所って、ベッドなんですよ。
お姫様、あんた、めっちゃ至近距離に投げたんじゃない?
ヤる気で至近距離の壁に生き物を投げつけて平気で眠ろうとするって…完全に猟奇だわ…。
そして、カエルが人間の姿に戻ってからの変わり身の早さときたら、もういっそ清々しいくらいですよ。
ここまで性格の悪い人間がハッピーエンドを迎える話って、なかなか珍しいのではないでしょうか。
忠実なしもべハインリヒ
日本語のタイトルでは後半が削除されていることが多いので、最後に従者が出てくること自体知らなかったり、彼の名前がハインリヒだとご存じない方もいるのではないでしょうか。
いったい彼は、このお話でどような存在なのでしょう。
まず、お城の中でどんなことが起きていたか知る由もないはずの人間が、何故、主人の姿が元に戻った翌日などというタイミングで突然あらわれるのか。
どこかからのぞいてたんじゃないのか?
原典で何度も何度もくり返される「忠実」という表現が、なんだか「ストーカー」と読めてきてしまいそうな今日この頃。
そして、最後にちょろっとあらわれるだけの人間の名前が、何故にタイトルに冠されるのか。
王子ですら名前は出てこないというのに。
そもそもハインリヒのくだりって必要なのか。
ストーリーに影響無いからこそ、日本の絵本などでははぶかれているのではないのか。
ハインリヒだけがこれほど唐突に特別なのは何故なのか。
まぁ、どれだけ考えても答えは出ないんですけれども。
そもそもグリム童話と呼ばれるものは、グリム兄弟の創作物ではなく、昔から口伝で伝わっているお話を収集して書きとめたものなんですよね。
ちなみに、グリム兄弟に伝えたのは、お兄ちゃんの奥さんの実家だと言われています。
もしかしたら、一番最初にこのお話を考えた人や、口伝えで伝えていく中の誰かが、ハインリヒという人になんらかの思い入れがあって、どうしても登場させたくて、最終的にこんなお話になったのかなぁ、と想像するとおもしろいですよね。